昨年2025年は、生成AIの実装が急速に進む一方で、サイバー脅威の質的変化が明確になった1年でした。
攻撃者はAIを「ツール」として使う段階を超え、攻撃プロセスそのものを自律化・自動化し始めています。
また、ランサムウェア攻撃は単なるデータの暗号化から、より狡猾な「データ搾取と恐喝」へとその重心を移しました。
本記事では、2026年に企業・組織が直面する脅威の全貌と、それに対抗するための「次の一手」について、最新のインテリジェンスと事例を交えて詳報します。
2026年の脅威トレンド:サイバー脅威の「AI化(AI-fication)」
2026年のセキュリティランドスケープを決定づけるのは、AI、自動化、そして相互接続されたシステムの融合です。
かつては高度な専門知識が必要だったサイバー攻撃が、AIによって「工業化」され、参入障壁が劇的に下がっています。
1. 「Agentic AI(自律型AI)」の台頭と脅威
今年、最も警戒すべきは「Agentic AI」の悪用です。これは単にプロンプトに応答するだけのAIではなく、自律的に意思決定を行い、複数のステップを実行し、実システムと対話する能力を持ちます。
攻撃者はこの技術を使い、フィッシングやソーシャルエンジニアリングを完全に自動化・パーソナライズ化します。
さらに、企業の業務フローに組み込まれた正規のAIエージェントが侵害されれば、それが「内部犯行者」のように振る舞い、データ操作や物理的な制御システムの乗っ取りを引き起こすリスクがあります。
2. ディープフェイクによる「信頼」の破壊
AIによる画像・音声生成技術は、もはや肉眼や耳では判別不可能なレベルに達しています。
2026年には、ディープフェイクを用いた「ナディファイ(衣服を消去する)」アプリによるハラスメントや恐喝、あるいは経営幹部になりすました詐欺(BEC)が、より身近で深刻な脅威となります。
従来の「不自然な日本語を見抜く」といった教育は通用しなくなり、送信元の認証や通信の正当性を検証する技術的な「トラスト(信頼)検証」への移行が不可欠です。
防御の要諦:侵入を前提とした「マイクロセグメンテーション」
「侵入を防ぐ」境界防御だけでは、もはや組織を守れません。
通信販売を手掛ける大手企業が2025年12月に公表したランサムウェア被害の報告書は、多くの日本企業にとって重要な教訓を含んでいます。
同社はEDR(Endpoint Detection and Response)を導入していましたが、攻撃者はVPN機器の脆弱性から侵入し、EDRの検知を回避・無効化してネットワーク内を横移動(ラテラルムーブメント)しました。

図:電巧社
1. EDRの限界と「横移動」の遮断
EDRはエンドポイント(端末)での検知には有効ですが、攻撃者が一度侵入し、正規の通信に紛れてネットワーク内を移動し始めると、それを食い止めるのは困難です。
攻撃者は初期侵入からわずか1時間半ほどで横移動を開始するというデータもあり、人手による対応では間に合いません。
2. マイクロセグメンテーションの導入
そこで不可欠となるのが「マイクロセグメンテーション」です。これはネットワークを細かく区画化し、区画を越える通信を厳格に制御して事前に防御する手法です。
- エージェント型の優位性: 従来のネットワーク機器ベースの手法とは異なり、サーバーやPCにエージェントを入れる「エージェント型」であれば、クラウドやオンプレミスが混在する環境でも一貫したポリシーを適用できます
- プロセスの可視化: 通信の「送信元と宛先」だけでなく、どのプロセスが通信しているかまで可視化・制御することで、ランサムウェアの拡散やC&Cサーバーへの通信を封じ込めることが可能です
2026年の情報リテラシーと組織づくり
技術的な対策と共に、2026年は「人」と「組織」のリテラシー再定義が求められる年となります。
1. 全員参加の「プラス・セキュリティ」
サイバー・セキュリティはもはや専門部署だけの責任ではありません。
事業部門や管理部門など、すべての従業員がそれぞれの業務の中でセキュリティ意識を持つ「プラス・セキュリティ」の考え方が不可欠です。
全員が「フォロワーシップ」を発揮し、組織全体でインシデントへの耐性(サイバーレジリエンス)を高める組織づくりが、2026年の経営課題となるでしょう。
2. 誤情報・偽情報(Disinformation)への対抗
生成AIが生み出す巧妙な偽情報は、企業の評判や社会的信用を一瞬で毀損するリスクがあります。
企業には、自ら情報を収集・分析し、能動的にリスクを排除する「カウンター・インテリジェンス(CI)」の視点が求められます。
これは受動的な情報保全を超え、競合や敵対勢力による諜報・宣伝工作を見抜き、無力化する取り組みです。
結びに:2026年を勝ち抜くために
2026年、私たちは「AI対AI」の攻防という新たな局面に突入します。
攻撃者はAIを使いこなし、スピードと規模で圧倒しようとしています。
これに対抗するためには、私たち防御側もまた、AIによる検知・対応の自動化を進めると同時に、侵害を前提とした多層的な防御(マイクロセグメンテーションや厳格な認証)を実装しなければなりません。
しかし、技術の進化だけで全てが解決するわけではありません。最終的な防波堤となるのは、高度なリテラシーを持った「人」であり、セキュリティを文化として内包した「組織」です。
本年も、皆様の組織が安全に発展できるよう、最新の脅威情報と実践的な対策をお届けしてまいります。
2026年が皆様にとって、安全で飛躍の年となることを心よりお祈り申し上げます。

この記事の著者:髙橋敦史(Takahashi Atsushi)
電巧社 SI事業部 執行役員

