近年、ゼロトラストセキュリティの考え方が広がる中で、「誰が、何に、どのようにアクセスするか」を制御する仕組みがますます重要になっています。
特に注目されているのが、RBAC(ロールベースアクセス制御)とABAC(属性ベースアクセス制御)という2つのアプローチです。
本記事では、RBACとABACの違いをわかりやすく整理しながら、それぞれの特性やゼロトラストとの関係性、そして実際のIT環境でどう活用されているのかを解説します。
加えて、マイクロセグメンテーションやZTNAなど、これらの考え方と連携する最新ソリューションについてもご紹介します。
RBAC(ロールベースアクセス制御)とは?
RBAC(Role-Based Access Control/ロールベースアクセス制御)は、ユーザーに「役割(ロール)」を割り当て、そのロールに応じたアクセス権限を付与する方法です。
役割には、部署や職種、担当業務などが割り当てられます。
例えば、ユーザーに「営業部」という役割(ロール)を割り当てた場合は、「顧客管理システム」へのアクセス権限を与え、「経理部」を割り当てた場合は、「会計システム」への権限を与えるといった形です。
この方式の最大のメリットはシンプルで分かりやすいこと。
組織の体制に合わせてルールを設定できるので管理がしやすく、中小規模の企業にとっては運用しやすい方法です。
ただし、細かい条件を制御したい場合や、複数のロールが混在する複雑な組織では、ロールの設計や管理が煩雑になるという課題があります。
ABAC(属性ベースアクセス制御)とは?
ABAC(Attribute-Based Access Control/属性ベースアクセス制御)は、役職や所属部署などのユーザー属性に加えて、時間帯、場所、デバイス、さらにはアクセス対象のリソース自体の属性(例:データの機密性)も含めた複数条件に基づいてアクセス可否を判断する方法です。
例えば「経理部の社員が、業務時間内に社用PCから社内ネットワーク経由でアクセスしている場合のみ、経費精算システムへのアクセスを許可する」といった、きめ細かなルールが実現できます。
このようにアクセス時の条件を細かく制御できるため、柔軟かつ厳格なアクセスが求められる高セキュリティな環境に適しています。
一方で、ポリシーの設計や運用が複雑になるため、導入にはある程度の準備と知識が必要です。
RBACとABACの違いは?

RBACとABACの大きな違いは、アクセス制御の基準と、それに基づく柔軟性にあります。
RBACは「役割(ロール)」に基づいてシンプルに管理できる一方、ABACは「属性」に基づいて柔軟かつ動的な制御が可能です。
以下の表では、両者の特徴を比較しています。
RBAC(ロールベース) | ABAC(属性ベース) | |
---|---|---|
制御の基準 | ユーザーの「役割」 | ユーザー・環境の「属性」全般 |
柔軟性 | △ 限られた制御が中心 | ◎ 条件を組み合わせた高度な制御が可能 |
管理のしやすさ | ◎ 比較的簡単に導入・運用できる | △ 設計・運用が複雑になりやすい |
ゼロトラストの観点からのRBACとABACの違い
では、ゼロトラストの観点から見た場合、RBACとABACはどう違うのでしょうか?
ゼロトラストとは、「常に検証し、状況に応じてアクセスを制御する」ことでサイバー脅威からネットワークを保護する、今注目のセキュリティの原則です。
この原則に対応しようとした場合、あらかじめ定義されたロールに基づいてアクセス制御するRBACだけでは、状況に応じた柔軟な判断が難しい場面もあります。
一方でABACは、ユーザーの属性に加えて、時間や場所、アクセス元端末の状態といったコンテキスト情報を組み合わせた制御が可能です。
アクセスの状況に応じて判断する必要があるゼロトラストの考え方には、ABACの方が柔軟に対応できます。
RBACとABACはどう使い分ける?現実的な運用のヒント
「ゼロトラストに対応できるのはABAC」と前述しましたが、実際の運用では、RBACとABACを併用するケースが一般的です。
基本的なアクセス権限はRBACで設定し、よりセキュリティが求められる部分だけABACで制御する、といった使い分けが有効です。
中小企業や固定的な業務体制ではRBACから始めるのが現実的ですが、クラウド環境の導入やリモートワークの拡大といった柔軟な働き方を取り入れる企業では、将来的にABACの導入が不可欠となる可能性があります。
RBAC/ABACと連携するゼロトラストソリューション
RBACやABACといったアクセス制御の考え方は、単体で機能するものではなく、実際のIT環境において適切なソリューションと連携させることで、初めて効果を発揮します。
ゼロトラストを実現する上では、こうした制御ポリシーをどのように「現場レベルで適用するか」が重要なポイントになります。
代表的なゼロトラスト対応ソリューションとしては、以下のようなものがあります。
IDaaS/IAM(アイデンティティ管理)
IDaaS/IAM(アイデンティティ管理)は、ユーザー認証・認可の基盤として、RBACやABACの中核となる存在です。
SSO(シングルサインオン)やMFA(多要素認証)の仕組みと連動し、「誰が誰であるか」を正確に検証します。
ZTNA(Zero Trust Network Access)
ZTNA(Zero Trust Network Access)は、アプリケーション単位でアクセスを制御する仕組みで、従来のVPNに代わる手段として普及が進んでいます。
製品によってはABACのように柔軟なポリシー制御も可能です。
マイクロセグメンテーション
マイクロセグメンテーションは、ネットワーク内部を細かく分割し、通信単位で制御を行う技術です。
ユーザーや端末、アプリケーションごとの属性情報をもとに、通信の許可・拒否を柔軟に設定できるため、ABAC的な制御をネットワーク層で実現する手段として非常に有効です。
例えば、「開発部ロールのユーザーが、社内ネットワークから、平日の日中のみ特定サーバーへアクセスできる」といったルールを、ポリシーベースで構成することが可能です。
このように、RBACやABACの考え方は、ID管理だけでなくネットワークやアプリケーションレベルの制御と連携させることで、ゼロトラストのセキュリティ設計として現実味を帯びてきます。
まとめ
RBACとABACはいずれも、ゼロトラスト時代において欠かせないアクセス制御の考え方です。
RBACは導入・管理のしやすさに優れ、ABACは柔軟性と高度な制御に対応できるという、それぞれ異なる強みを持っています。
実際の運用では、この2つを状況に応じて組み合わせることが一般的です。
さらに、ID管理だけでなく、ZTNAやマイクロセグメンテーションといったソリューションと連携することで、ポリシーをネットワークやアプリケーションレベルにまで落とし込み、より実効性の高いゼロトラストセキュリティを実現できます。
中でもマイクロセグメンテーションは、従来見落とされがちだった内部通信への制御を強化できる点で、注目すべき技術のひとつです。
RBACとABACの特徴を正しく理解し、適切な技術と組み合わせて、自社のセキュリティを強化しましょう。
弊社では、米国セキュリティ企業ColorTokens社のマイクロセグメンテーションソリューション「Xshield」を取り扱っております。
詳細は、公式サイトからご確認ください。

この記事の著者:電巧社セキュリティブログ編集部