脱炭素社会実現のために、政府は様々な方策を検討しています。
そのうちの一つである「カーボンプライシング」は、昨今話題となっています。
ニュースで目や耳にしたことがある、という方は多いのではないでしょうか。
直訳すると「炭素の価格設定」という意味で、欧州を中心に世界各国で導入されています。
このカーボンプライシングは、どのような制度で、なぜ導入されているのか。
本記事で簡潔にご紹介します。
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.カーボンプライシングとは
カーボンプライシングは、排出されるCO2 の量に応じたコストが課される制度です。
分かりやすく言うと
「CO2そのものに価格をつけ、CO2を排出する企業や家庭の行動・意識を変革するための制度」
という意味。脱炭素推進、つまり地球温暖化防止のための経済的手法なのです。
カーボンプライシングの様々な取り組みは、「明示的カーボンプライシング」と「暗示的炭素価格」という2つの種類に分けられています。
<明示的カーボンプライシング>
CO2排出量1tあたりに価格が付けられるもの
▼例
炭素税:化石燃料を使用した製造時や発電時のCO2排出に課税する制度
排出量取引:国や企業同士でCO2排出の枠を決め、超過分・不足分を取引できる制度
<暗示的炭素価格>
エネルギーの消費量やCO2排出削減にコストがかけられるもの
▼例
クレジット取引:CO2削減価値をクレジットとして取引できる制度
炭素国境調整措置:環境への施策が行き届いていない国からの輸出品に対し、生産時のCO2排出分の費用を輸入国が負担する制度
.日本のカーボンプライシングの現状
日本は、明示的カーボンプライシングに分類される「地球温暖化対策のための税」(以下「温暖化対策税」と表記)を、2012年10月1日から施行しています。
具体的には、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料の利用に対し、CO2の排出量に応じた税が課される、というものです。
しかし、この温暖化対策税の税率は微々たるもの。
欧州の炭素税導入国の税率
出典:みずほリサーチ&テクノロジーズ|導入が検討されている「カーボンプライシング」とは何か?
欧州と比べると、非常に低い税率であることが分かります。
税制の見直し、そして新しい施策は、本国の大きな課題となるでしょう。
.温暖化対策税の使途
徴収された温暖化対策税は、どのような取り組みに使われているのでしょうか。
平成24年4月に閣議決定された「第4次環境基本計画」では、以下のように述べられています。
“「税制による地球温暖化対策を強化するとともに、エネルギー起源CO2排出抑制のための諸施策を実施していく」”
“「税収を活用して、省エネルギー対策、再生可能エネルギー普及、化石燃料のクリーン化・効率化などのエネルギー起源CO2排出抑制の諸施策を着実に実施」”
つまり、その名の通り「地球温暖化を防止するための対策や支援」に使われています。
例えば、環境省が行う設備導入補助事業の支援やZEB(※)化補助、地域での再生可能エネルギー導入などです。
※ZEB とは
Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の頭文字を取った略称。
建物で消費する年間のエネルギーを「省エネでへらし、創エネでつくる」ことでエネルギー消費量を正味(ネット)でゼロにすることを目指した建物のこと。
.カーボンプライシングは企業にどう影響するか
では、カーボンプライシングは企業にどのような影響を与えるのでしょうか。
コスト負担を避けるため、CO2排出削減に意欲的になることは良いことです。
脱炭素への貢献ができますし、取り組み自体が企業のイメージアップになります。
しかし、あまりにも過重な負担を強いてしまうと、経営を圧迫してしまう恐れも。
そうなると、企業の国際競争力の低下や、カーボン・リーケージ(※)が懸念されます。
またカーボンプライシングによってエネルギーコストが上昇すれば、エネルギー消費の激しい企業に負荷がかかります。
本制度は、企業にとって大きな負担とならないよう配慮することが、導入にあたって大事なポイントになるのではないでしょうか。
※カーボン・リーケージ とは
CO2排出規制が厳しい地域から、規制が緩やかな他の地域へ移動し事業活動を行うことで、移動先の国のCO2排出量が増えてしまうこと。
.まとめ
脱炭素が先行する欧州に比べ、日本が遅れをとっているのは疑いようもない事実です。
この状況を打開するために、カーボンプライシングは有効な手立てとなるでしょう。
とはいえ、発生するであろう様々な問題も考慮しなければなりません。
コロナ禍で経済が不安定な今、慎重に検討すべき制度です。
2050年カーボンニュートラル実現まで残り30年を切りました。
カーボンプライシング導入は未だ議論の段階にあり、具体的な結論は先送りになっています。
日本政府および環境省・経済産業省が、今後どのような結論を出すのか注目です。
<参考資料>
環境省|「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」取りまとめ|2021.12.10
環境省|「地球温暖化対策のための税」について|2021.12.9
みずほリサーチ&テクノロジーズ|導入が検討されている「カーボンプライシング」とは何か?|2021.12.10
環境省|現行の「地球温暖化対策のための税」の現状について|2021.12.10
環境省|カーボンプライシングの活用に関する小委員会(第7回)議事次第・配付資料|2021.12.20