2023年12月25日

【脱炭素の論点】第1回「脱炭素」とは?

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脱炭素の様々なテーマからピックアップして解説する『脱炭素の論点』。第1回は、「脱炭素」の基本的な意味と種類について紹介していきます。

ゆでがえるくん プロフィール

地球温暖化を甘く見て、ライフスタイルや経済の仕組みを変えられない人類をイメージして、
AIが作り出したバーチャルなカエル。
徐々に鍋で茹でられているが、気がついていない。人類と一緒に、脱炭素について勉強する必要性を感じている。


※ゆでがえるくんは、画像生成AIによって生まれました!

※本記事の文章は『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024(出版:旬報社)』から著者及び出版社の許可を得て抜粋したものです

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「脱炭素」って? 炭素が悪者なの?

温室効果ガス(代表格はCO2;二酸化炭素、炭酸ガス)が、化石燃料を利用した人類の活動で急増しています。

それにより、地球温暖化と気候変動が進行しています。その被害を回避するためには、温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにする必要があります。

「脱炭素」とは、その方針を象徴的に表した言葉で、「脱温暖化」、「ゼロカーボン」、「カーボンニュートラル」などと同義です。生物の体は炭素化合物からできています。

炭素自体が悪者なのではありません。「実質ゼロ」の意味は、CO2吸収(森林、海洋)や地下貯留分を差し引いた「総括排出量」をゼロにするという意味です。

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「脱炭素」が取り組もうとしている「気候変動」とは?

そもそも「気候変動」はなぜおきていて、どこまで深刻なのでしょうか。

まず、気候変動の原因となっている「温暖化」は、「大気中の温室効果ガスの濃度増加による地表や海水温度の上昇」という自然の因果関係として説明できます。

しかし、CO2などの濃度増加は、産業革命以後のもので、とくに近年急増しており、経済活動による人為的なものなのです。

地球温暖化で、極地や高山の氷が融け、大気や水の循環が大きく変わり、海水も、炭酸の濃度上昇で、酸性化し、生態系の大きな変化が誘発されています。

極端な気象現象も頻発し、産業活動にも甚大な影響が表れはじめています。「脱炭素」は、いまや「気候危機」となった気候変動への対策なのです。

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「脱炭素」には2種類ある?

化石燃料の大量使用が気候危機の原因ですから、その解決のために、次の2つの戦略が考えられるのは当然です。

戦略① 化石燃料の使用をやめてCO2が出ないようにする
戦略② 化石燃料の使用はやめずに、出たCO2を回収し処分する

これらに対応して、次の2つの「脱炭素」のかたちが出現します。

脱炭素① 「社会を元気にする脱炭素」
脱炭素② 「社会を疲弊させかねない脱炭素」

脱炭素①「社会を元気にする脱炭素」

①の脱炭素戦略では、化石燃料時代のエネルギー使用の仕方を改め、省エネ型に転換することで、大幅な需要削減を行います。

さらに、太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱などで化石燃料を代替します。

これらは、化石燃料と違って、自然の循環の中で現れるので、「再生可能エネルギー」といい、略して「再エネ」とも呼びます。

再エネは広い地域に分散した「分散型エネルギー」ですから、地域のエネルギー自給も可能になります。

これまで外(最終的には外国)に支払っていた、光熱費や燃料代を削減でき、地域経済の大幅改善が可能になります。

脱炭素②「社会を疲弊させかねない脱炭素」

②の脱炭素戦略では、化石燃料を輸入し、大規模な製油所や発電所などから供給する「集中型エネルギー」のビジネスを継承し、エネルギー輸入を続けます。

CO2を出さない燃料(水素やアンモニア)も、専用船を建造して外国から輸入します。

内燃機関自動車もある程度残り、大気中へのCO2排出も許容されます。

発電所などから排出される大量のCO2は、CCS(CO2を分離し隔離する技術)で、分離し、最終的には地下に貯留します。

ただ、地震国日本では、CO2を永続的に安全に貯留できる場所はほとんどないため、液化したCO2は、お金を払って外国に引き取ってもらうことになります(逆有償輸出)。

大気中に放出されてしまったCO2は、空気中から直接吸着分離して回収・貯留するDACCS技術(開発途上)で処理します。

消費者に供給されるエネルギーには、これらのコストが転嫁され、高価なものとなることが予想されます。

これまで化石燃料を利用して事業を行ってきた産業は、現有の設備や技術や権益を長く使いたいので、戦略②へのインセンティブを持ちます。

しかし、戦略②では、電気代が高くなり、産業の国際競争力の維持も困難になります。

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日本には再生可能エネルギーがある

そうはいっても、日本にはエネルギーがあるのか、と心配される方も多いでしょう。

しかし、「日本にはエネルギーがない」というのは、あくまでも化石エネルギー(石油、天然ガス)についての話なのです。

図表は、省エネやEV化を進めていくものとして、電力需要の推移を推定し、それを、全国各エリアについて再エネ電力供給量の推定値(設備投資後)と比較してみたものです。

2050年に向けて適切な投資を続け、省エネと再エネ導入を図れば、全国の需要を再エネで十分まかなえることがわかります。

ただし、九州と四国には太陽光が、また東北と北海道には風力資源が偏在しています。

送電網の大幅強化により、需要地への輸送体制を作ること、供給力の高い北海道では道内の送電網を強化し、人口や産業の誘致力を高めること、などが求められます。

図表 省エネによる需要削減予測(上)と再エネ電力供給能力(下)

出典:堀尾正靱

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2つの脱炭素からの賢明な選択を

今まで、日本は、毎年15-20兆円のお金を化石燃料輸入に支払ってきました。

これを「対外エネルギー支払い」といいます。

脱炭素戦略①では、省エネと再エネに設備投資をすることで、対外エネルギー支払いの解消をめざします。

地域でも、エネルギー自給や他地域へのエネルギー輸出により、これまで外に出ていたお金を地域の産業振興、社会福祉・教育の改善などにまわすことができるはずです。

出典:『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024』 序章①「脱炭素」とは?

最新図説 脱炭素の論点 2023-2024

出版社:旬報社

著者 :一般社団法人 共生エネルギー社会実装研究所 (編著)
    堀尾 正靱(編集主幹)他

発売日:2023年5月29日

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