近年、電力需要の増加とともに、電力の安定供給を維持することが重要な課題となっています。
特に、夏の猛暑や冬の厳寒期にはエアコンや暖房の使用が急増し、電力需要のピークが発生します。
このような状況が続くと、電力供給が逼迫し、停電リスクの増大や電気料金の高騰につながる可能性があります。
この問題を解決するために注目されているのが、デマンドレスポンスです。
本記事では、デマンドレスポンスの仕組みや種類、メリット、日本の取り組みについて詳しく解説していきます。
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デマンドレスポンスとは?
デマンドレスポンス(Demand Response:DR) とは、電力需要(デマンド)を制御する仕組みのことを指します。
電力の消費者(家庭・企業)が使用電力を調整することによって、供給と需要のバランスを取り、電力の安定供給とコスト削減を実現する仕組みです。
デマンドレスポンスの仕組み
電力の需要と供給のバランスが悪いと、停電リスクや電気料金の高騰が発生します。
そこで、電力需要の状況によって消費者が電力を減らす、もしくは増やすことで、供給とのバランスを取ります。
その制御方法として「上げDR(アップワードDR)」と「下げDR(ダウンワードDR)」 があります。
上げDR(アップワードDR)
電力供給が余っているときに、消費者が意図的に電力使用を増やすことで需給バランスを調整します。
例:余剰電力が発生したときに、工場が設備をフル稼働したり、電気自動車(EV)の充電を増やしたりする。
下げDR(ダウンワードDR)
電力供給が不足しているときに、消費者が意図的に電力消費を減らすことで需給バランスを調整します。
例:猛暑や寒波で電力需要が急増したときに、企業がエアコンの使用を抑えたり、工場の稼働を一時的に停止したりする。
このように、デマンドレスポンスは、電力の過不足に応じて需要側の調整を行い、電力の安定供給を支える仕組みとなっています。
デマンドレスポンスの種類
デマンドレスポンスは、主に 「インセンティブ型」と「電気料金型」 の2つの方式に分類されます。

① インセンティブ型デマンドレスポンス
電力会社と契約を結び、依頼に応じた節電を行うことで、報酬(インセンティブ)がもらえる方式です。
例えば、猛暑の日に電力消費が急増した際、企業や工場がエアコンや機器の稼働を一時的に抑えると報酬を得られます。
メリット
- 直接的な報酬が得られる:契約に基づいて電力削減を行うことで、企業は電力会社から報酬を受け取ることができる
- 参加者の負担が少ない:節電要請がある時のみ対応すればよいため、継続的な電気料金の変動リスクがない
- 電力の需給調整がしやすい:電力会社が必要なタイミングで節電を要請できるため、需給バランスを最適に調整できる
デメリット
- 即時の対応が求められる:電力会社の指示に応じて速やかに電力消費を減らす必要があり、業務に影響を及ぼす場合がある
- 契約先が限られる:インセンティブ型デマンドレスポンスを実施している電力会社やアグリゲーターと契約する必要がある
- 長期的な節電には不向き:短期的な節電対策には有効だが、長期間にわたって電気料金を削減する効果は限定的
② 電気料金型デマンドレスポンス
電力の需要が高い時間帯に電気料金を高く設定することで、消費者に節電を促す方式です。
例えば、ピーク時の電気料金を通常の2倍にすることで、企業が節電して、需要の平準化を図ることができます。
メリット
- 長期的な節電意識の向上:電気料金が変動することで、企業や家庭は継続的に節電を意識するようになる
- 市場メカニズムを活用:需要が多い時間帯の電気料金を引き上げることで、ピーク電力の抑制が自然に行われる
- 柔軟な対応が可能:契約に縛られず、消費者が自主的に電力消費のタイミングを調整できる
デメリット
- 電気料金の不安定化:ピーク時の料金が高騰するため、電力使用量のコントロールが難しい場合、コスト負担が増加する可能性がある
- 消費者の自主的な判断に依存:インセンティブ型とは異なり、節電に協力するかどうかは消費者次第であり、効果が安定しないことがある
- 業種によって適用しにくい:24時間稼働が必要な工場や医療機関などでは、価格変動を避けられず、導入が難しい場合がある
デマンドレスポンスのメリット
デマンドレスポンスを導入することで、企業・電力会社・環境それぞれにメリットがあります。
企業のメリット
- 電気料金の削減:ピーク時の電力使用を抑えることで、高額な電気代を回避できる
- インセンティブ(報酬)の獲得:デマンドレスポンスに協力すると、電力会社やアグリゲーター(需給調整事業者)から報酬がもらえる
- 省エネ・環境対策の推進:CO2排出量削減につながり、企業のESG経営やSDGsへの貢献が可能
- 非常時の電力確保:自家発電設備と組み合わせれば、停電リスクを低減できる
電力会社のメリット
- 電力供給の安定化:需要の急増を抑えることで、供給不足や大規模停電(ブラックアウト)を防ぐ
- 発電コストの削減:ピーク時の需要を抑えることで、火力発電などの高コスト発電の稼働を減らせる
- 再生可能エネルギーの有効活用:風力や太陽光の出力変動に合わせて、電力消費を調整できる
環境へのメリット
- 電力インフラの負担軽減:新規の発電所建設や送電網の拡張を抑え、コストを削減
- 脱炭素社会の実現に貢献:化石燃料を使う火力発電の使用を減らし、CO₂排出量を削減
日本のデマンドレスポンスの動向
日本におけるデマンドレスポンスの取り組みは、電力自由化と容量市場の導入により大きく進展しています。
電力自由化とアグリゲーターの増加
日本では、2016年の電力小売全面自由化により、電力市場の競争が促進されました。
これに伴い、電力の需給バランスを調整する役割を担う「アグリゲーター」と呼ばれる事業者が増加しています。
アグリゲーターは、複数の需要家の電力使用を統合・制御し、効果的なデマンドレスポンスを実現します。
またアグリゲーターは特定卸供給事業者とも呼ばれており、資源エネルギー庁のリストから確認することができます。
容量市場の導入とデマンドレスポンスの役割
将来の電力供給力を安定的に確保するため、日本では2020年度に容量市場が開設されました。
この市場では、将来の供給力(kW)を取引し、適切なタイミングでの発電所建設や供給力の確保を目指しています。
デマンドレスポンスは、この容量市場において「発動指令電源」として重要な役割を果たしています。
具体的には、需要家が電力使用量を調整することで、供給力として評価され、市場に参加することが可能です。
例えば、東北電力では、1,000kW未満の自家発電やデマンドレスポンスもアグリゲーターを通じて容量市場に参加できるとしています。
まとめ
デマンドレスポンスは、電力の安定供給を支える重要な仕組みであり、企業には、停電リスクの低減、電力コストの削減、再生可能エネルギーの有効活用、CO2排出量の削減 という点で大きなメリットをもたらします。
今後、AIやIoT技術と組み合わせたスマートエネルギー管理が進むことで、デマンドレスポンスはさらに発展していくと予想されます。
電力の効率的な活用が求められる時代において、デマンドレスポンスは私たちの生活と社会に欠かせない仕組みとなるでしょう。
【参考サイト】
・資源エネルギー庁┃DR(デマンド・リスポンス)
・資源エネルギー庁┃くわしく知りたい!4年後の未来の電力を取引する「容量市場」 など
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