2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、日本政府は2027年度から、「排出量取引」制度の本格導入を予定しています。
この制度は、企業の脱炭素化を促進する重要な経済的手法なのですが、一体どういったものなのでしょうか?
この記事では、その仕組みやメリットなどを詳しく解説してきます。
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排出量取引とは?
排出量取引は、企業や国に温室効果ガスの排出上限(キャップ)を設定し、その範囲内で排出枠を売買(トレード)できる制度です。
この制度は排出されるCO2に価格をつけて温室効果ガスの削減を目指す仕組み「カーポンプライシング」の一種で、全体としての排出量を効率的に削減することが可能となります。
排出量取引のメリット
排出量取引の最大の特徴は、削減目標を確実に達成しつつ、市場メカニズムを活用して費用対効果を最適化できる点にあります。
これにより、以下のメリットが得られます:
経済的なインセンティブ
排出量取引では、排出枠(クレジット)の余剰を市場で販売することで、削減を進めた企業が直接的な経済的利益を得られます。
- 収益機会の創出:排出量削減を達成し、余剰枠を持つ企業は、それを他の企業に売却して新たな収益源を得ることができます。例えば、エネルギー効率改善や再生可能エネルギーへの投資を行うことで、排出量を大幅に削減した企業が余剰クレジットを販売し、初期投資を回収するケースがあります
- 投資の活性化:削減活動が利益を生むため、企業は環境技術や設備の改善に積極的に投資を行うインセンティブが高まります。これにより、企業の競争力が強化されるだけでなく、関連する新技術の普及が促進されます
削減目標の明確化
排出量取引は、政府や規制機関が排出量の上限(キャップ)を設定するため、全体の削減目標が明確になります。
- 確実な削減の達成:排出量取引では、キャップが全体の排出量の上限を保証するため、確実に削減目標を達成する仕組みが備わっています。これにより、企業個別の削減努力が全体的な気候変動対策に直結します
- 企業間の公平性:同じキャップの下で運用されるため、すべての企業が共通の目標に取り組むことになり、不公平感が軽減されます。また、自社の目標達成を具体的な数値で示すことができるため、ステークホルダーに対して透明性を確保できます
市場の効率性
排出量取引は、企業間で最も費用対効果の高い方法で削減が進む市場メカニズムを活用します。
- 削減コストの最適化:削減コストが低い企業が排出量削減を行い、高い企業はクレジットを購入することで、自社で削減するよりも安価に目標を達成できます。この仕組みにより、社会全体として最小限のコストで最大の削減効果を得ることが可能になります
- 柔軟性の提供:排出枠の売買が可能なため、企業は削減手段を柔軟に選択できます。自社での削減が困難な場合でも、市場からクレジットを購入して義務を果たせるため、短期的なビジネスの継続性が確保されます
排出量取引は、単なる温室効果ガス削減の手段にとどまらず、経済的なインセンティブと効率性を兼ね備えた柔軟な仕組みです。
このメリットを最大限に活用することで、企業は環境への貢献とともに、自社の競争力やブランド価値を向上させることができます。
日本での実施
日本で導入される排出量取引制度は、以下のような段階を経て導入される予定です。
期間 | フェーズ | 内容 |
---|---|---|
2023年度~ | 試行期間 | GX-ETSによる自主参加型の試行運用 |
2026年度~ | 移行期間 | 企業ごとの排出枠設定 |
2027年度~ | 本格運用 | 大規模排出企業への義務化開始 |
現在は試行期間ですが、2026年度には、企業ごとの排出枠といった制度の詳細を決定し、2027年度には本格運用を開始する予定です。
年間CO2排出量10万トン以上の企業(自動車や電力などの分野から、300~400社)に参加を義務付け方針となっています。
炭素税との違いは?
排出量取引と同じカーボンプライシングの一種として、「炭素税」というものがあるのですが、それとはどう違うのでしょうか?
以下の表を見ながら比較してみましょう。
比較項目 | 排出量取引 | 炭素税 |
---|---|---|
仕組み | 排出枠を売買する | 炭素排出量に応じて税金を課す |
目的 | 全体の排出量を一定化に抑える | 排出削減を促進し、税収を環境対策に活用 |
インセンティブの方法 | 効率的な削減を行った企業が利益を得る | 税負担を減らすために排出量を削減する |
対象企業 | 主に排出量の多い企業が対象 | すべての企業が対象 |
排出量取引の大きな特徴として、市場の競争原理を活用して効率的に排出量を削減できる点が挙げられます。
例えば、排出量削減が進んでいる企業は余剰枠を売却して利益を得られるため、さらに削減努力を進めるインセンティブが働きます。
しかし、制度の理解や市場取引の仕組みに慣れる必要があり、特に中小企業にとっては導入のハードルが高い場合があります。
一方炭素税は、化石燃料に含まれる炭素量に応じて課税する仕組みで、排出量削減を促進します。
この方法はシンプルでわかりやすく、税収を再生可能エネルギーの開発や省エネ推進といった環境対策に充てることができます。
ただし、炭素税は排出量削減の具体的な目標を保証するものではなく、企業の負担増につながるため、税率が高くなるほど経済活動に影響を与える可能性があります。
日本ではすでに「地球温暖化対策のための税(温対税)」として、炭素税が導入されています。
まとめ
排出量取引は、市場メカニズムを活用することで、効率的かつ経済的に排出削減を実現できる仕組みです。
温室効果ガス削減を目指すだけでなく、企業にとっても新たな成長戦略をもたらす可能性があります。
2027年度から日本での本格導入が予定されていますが、今のところ参加の義務があるのは、一部企業だけです。
しかし、地球温暖化が深刻化するなか、いつ対象範囲が拡大されるか分かりません。
そうなる前に、この制度を正しく理解しておくことは、企業の優位性を高めることに繋がります。
【参考サイト】
・環境省┃国内排出量取引制度について
・環境省┃地球温暖化対策のための税の導入 など
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