世界全体で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現」に向けた、様々な取り組みが行われています。
カーボンニュートラルは、日本を含めた154か国にて賛同(2021年12月時点)されており、地球の気温上昇を抑えるべく、各国が温室効果ガスの排出削減に関する展望を示しています。
日本では大手企業を筆頭に、脱炭素の取り組み・考え方を会社経営に取り込んだ「脱炭素経営」が急速に広まりました。
多くの大手企業が自社の経営および環境方針を見直し、社会的責任を果たそうと努めています。
そして現在、環境省が「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」(2022年3月)を公開したり、中小機構が「カーボンニュートラルに関する相談の窓口(オンライン)」を開設したりと、各所で中小企業の脱炭素経営を後押しする動きが見られます。
つまり、今や大手企業だけでなく、中小企業にも脱炭素経営が求められているのです。
それは一体なぜでしょうか。
.脱炭素経営が求められる理由とは
❶ サプライチェーン全体で脱炭素経営へ取り組む傾向
グローバル展開を行う大手企業では、サプライチェーン全体で脱炭素経営に取り組むことが常識的になりつつあります。
例えば、東急不動産ホールディングスでは、気候変動に関する目標として
「自社+サプライチェーンで2030年までに SBT 1.5℃目標の実現(CO2削減46.2%)」
といった具体的な目標を打ち出し、脱炭素化に取り組んでいます。
参考:東急不動産ホールディングス|GROUP VISION 2030
脱炭素経営は大手企業だけにとどまらず、サプライチェーン、つまり中小企業でも積極的な取り組みが求められています。
では、大手企業がサプライチェーンを巻き込んで脱炭素経営に取り組む理由は何でしょうか。
端的に言うと「リーダー企業の脱炭素の取り組みだけでは不十分」だからです。
大手企業の温室効果ガス排出の割合は「スコープ3 」(※)が多くを占めています。
つまり、真の脱炭素経営を達成するには、そのスコープ3に含まれるサプライチェーンからの温室効果ガス削減も欠かせません。
ステークホルダーも「サプライチェーン含む組織全体での取り組み」に目を向けつつある今、大手企業は、中小企業の協力なしには脱炭素経営を実現できないのです。
それゆえ、サプライチェーンへと脱炭素を求める動きは加速しています。
CO2排出削減に応じない企業は取引先から除外されるという恐れも。
大手サプライチェーンから外れることは、企業にとって死活問題です。
もちろんサプライチェーンに属していない企業も、脱炭素に取り組まなければなりません。
CO2排出量が多いという理由で企業評価が下がると、投資や雇用、取引など、多方面で不利益が生じます。
「脱炭素経営に踏み込めるか否かで企業の生死が決まる」というのは、決して誇張表現ではないのです。
※スコープ3 とは
スコープ1:企業が直接排出した温室効果ガス排出量
スコープ2:供給された電気や熱、蒸気などの使用の際に排出した温室効果ガス排出量
スコープ3は、上記以外のサプライチェーンの事業活動や、その他間接的な温室効果ガスの排出量のことを指します
❷ 地球環境保護には中小企業の協力が不可欠
18世紀半ば頃から問題視されている地球温暖化ですが、世界の平均気温上昇は止まらず、100年あたり0.74℃の割合で上昇しています。
昨今では、温暖化が原因とみられる異常気象が世界各地で観測されるなど、事態は深刻化の一途を辿っています。
このまま今と変わらぬ経済活動を続ければ、さらなる気温上昇、気候変動は免れないでしょう。
実は日本企業の99%以上が中小企業、ということをご存じでしょうか。
地球環境保護に一刻も早く取り組まねばならない今だからこそ、日本企業のほとんどを占める中小企業が、脱炭素化に向けて積極的でなければなりません。
取り返しのつかない状況になる前に、会社規模や業種問わず一丸となって、脱炭素経営に取り組む必要があるのです。
2016年の日本の企業数
●大企業 0.3%
●●中小企業 99.7%
●大企業 | 1.1 |
●中規模企業 | 53 |
●小規模企業 | 304.8 |
合計 | 358.9 |
中小企業庁|2023年版「中小企業白書」 掲載データに基づき作成(2023.4.28)
❸ 競争優位性の確立が必要
近年はSDGsの影響もあり、商品およびサービスは、エコでサステナブルなものが選ばれる傾向にあります。
実際、「エシカル消費」という環境・人・社会などに配慮した消費活動が広まっています。
ステークホルダーの脱炭素意識が高まっていることもあり、ブランディングのための脱炭素経営へと乗り出す企業も増えているようです。
そうすると、当然ながら脱炭素は市場に大きな影響をもたらします。
何の取り組みも行っていない企業は、市場競争での生き残りが難しくなるでしょう。
大手サプライチェーンは、リーダーである大手企業からの具体的な目標提示により、スムーズに取り組みを始められます。
しかし脱炭素の波に晒されていない中小企業は、自社の状況や市場の環境を把握・分析し、具体的な対策・戦略を練ってから行動を進めなければなりません。
自社の力だけで脱炭素経営を達成するには、多くの時間を要します。
「企業の脱炭素経営は当たり前」という環境に変わる直前に脱炭素経営を掲げても、すでに手遅れであり、市場競争での勝ち目はないと言わざるを得ない状況に。
結果として、環境への取り組みが重視される市場で優位性を確立するためには、早急に脱炭素経営を実践すべき、と言えるのです。
.まとめ
あらゆる企業に対し、地球環境保護の取り組みが強く要求される時代。
SDGsやGX(グリーントランスフォーメーション)などの概念を踏まえ、企業はそもそもの在り方や経営の方針を見直さなければなりません。
これから先、CO2の排出量が多い企業は、世間から厳しい視線を注がれることになります。
もはや、脱炭素経営は大企業だけが行うものではありません。
中小企業も積極的に取り組んでいくべきなのです。
今日、脱炭素経営に取り組む中小企業はまだまだ少ないのが現状です。
しかし必要性を理解し、先陣をきって脱炭素経営に取り組めれば、環境保護の支援になるだけでなく、新たなビジネスの機会獲得にもつながります。
中小企業だからこそ、そして自社だからこそできる「脱炭素」を見つけ出し、環境に寄り添った経営に取り組んでいきませんか。
<参考資料>
環境省|企業の脱炭素経営への取組状況|2023.5.26
経済産業省 資源エネルギー庁 | 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」|2022.2
気象庁|世界の年平均気温|2022.2
一般財団法人地球産業文化研究所|COP27報告シンポジウム(外務省資料:COP27結果概要)|2022.12.15