2024年10月25日

【脱炭素の論点】第5回 国策の現状とエネルギー価格の高騰

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脱炭素の論点 第5回「国策の現状とエネルギー価格の高騰」

脱炭素の様々なテーマからピックアップして解説する『脱炭素の論点』。

第5回は、日本の脱炭素に対する国策の現状と、エネルギー価格の高騰について解説します。

日本の脱炭素政策は どうなっているケロ?

※本記事の文章は『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024(出版:旬報社)』から著者及び出版社の許可を得て抜粋したものです


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国の「脱炭素」と「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」への方針を紹介し、エネルギー価格高騰の中におかれている私たちの課題を考えます。

国策の方向

脱炭素社会への移行は、化石燃料依存型の産業・社会構造(生産と消費の仕組み)から気候危機を回避できるような社会構造に移行するプロセスです。

この「移行」をグリーン・トランスフォーメーションといいGXと表すこともあります。

そこでは、当然、政策についての多様な議論や、既存の権益をめぐる政治的プロセスが展開します。

わが国は、2030年までにGHG(温室効果ガス)を46%以上(2013年比)削減し、2050年には実質ゼロ(発生と吸収を相殺したときにネットでゼロになる状態)を目標に掲げています。

その実現のための計画としては、第6次エネルギー基本計画(2021年閣議決定)が基本になりますが、さらなる具体化は、2022年7月末からGX実行会議で審議され、2023年2月10日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」に沿って行われることになります。

GX実行会議は、内閣総理大臣を議長とし、合計13名の有識者を構成員とした会議でした。

現在の国のGX推進方針は、

省エネ

再エネ導入(2030年までに再エネ比率36-38%を目標、系統整備の加速、北海道からの海底直流送電、地域と共生した再エネ導入のための事業規律強化)

原子力発電の再稼働と「国主導での国民理解の促進や自治体等への主体的な働きかけの抜本強化」

その他重要事項(の取組みと、「成長志向型カーボンプライシング」構想の実現です。

これらのために、今後10年間にかなりの資金が重点的に投入される計画になっています。

国の中長期の大計画に関わるGX計画が、産業界と経産省の意向を中心とし、短期間の議論で「閣議決定」され、トップダウンで実施されるプロセスは、国全体の産業社会構造を持続的なものに移行させるというGXの歴史的な課題を推進するには、なおほど遠い感があります。

内容的には、第6次エネルギー基本計画と同じく、CCS、CCU、アンモニア、メタンハイドレートなど、技術的・経済的実現可能性が不確かなものと、確実に実行可能なものとの仕分けができていないこと、日本のエネルギー自立への志向が明示されていないことから、社会を疲弊させかねない脱炭素の要素を強く含む内容となっています。

また、制度設計(ソフト)の要であるカーボンプライシング構想が不十分なままであることも、技術・設備(ハード)至上主義的なこれまでの政策を踏襲しています。

以上のように、2030年に46%以上の削減を実現するという大事業の具体的計画になっていないだけでなく、座礁資産となりかねない投資で、環境団体や再エネ関係団体からは、削減計画達成の障害となる可能性があるという懸念が表明されています。

少しずつGXが 進んでいくといいケロ!

電力、ガス、燃料価格の高騰と「原子力の復権

ウクライナ戦争による国際的な燃料価格の高騰と、円安の影響でエネルギー価格は高騰し、日本経済に大きな負荷を与えています。

石炭価格も急騰し、石炭火力の利点も失われています。

岸田内閣は、当初から、脱炭素には再エネだけでは不十分で原子力発電所(以下「原発」と略)の再稼働はもちろん新増設や稼働期間の延長が必要であるとし、3.11東日本大震災以後の基本方針であった緩やかな脱原発路線からの明白な離脱を表明していました。

その後、原発の60年超運転を可能にするエネルギー関連五法案を閣議決定(2023年2月28日)しています。

再稼働や次世代炉については、

「規制委が求めるテロ対策工事費用は1基当たり数百億円かかるとされる。
 稼働する数十年にわたってかかる関連費用も見えづらくなった」、

「国際原子力機関(IAEA)によると、60年を超えて運転を続けている原発はない。
 60年超の原発は「未知の領域」、「電力会社の多くは次世代革新炉の開発、建設には冷淡かつ消極的」、

「1基の建設費が1兆円前後と高額」、

「さらに次世代革新炉の多くはまだ欧米でも実用化されていないため、稼働時期も明らかになっていない」

などを含む多くの指摘がなされてきました。

東京電力福島第一原発の炉心溶融事故によって原発の「制御安全」(本質的に暴走する要素を制御によって安定化)のリスクの大きさが実証されたあと、各電力会社にとっては、いまや多額の負担がかかる重荷となっています。

核軍縮政策、テロ対策とも絡み、さらに左右の政治対立の焦点の一つとなってきた原発問題は、脱炭素の視点からは、次のような指摘ができます。

現在停止中の原発をすべて再稼働させても、たかだか3000万kWですが、風力発電の可能性はそれを上回るものです。

再エネ資源量は決して少なくなく、原発は絶対になくてはならないものとはいえないのです。


再エネに比べて計画期間・建設期間が大幅に長い原発は、2030年までに早期に求められている脱炭素化に間に合いません。

さらに、原発は、機器の劣化防止のため、需給調整のための負荷変動には不向きだとされていて、ベースロード運転が基本となります。

再エネ主力電源時代には、変動性(自然条件で変動)の再エネにあわせた需給調整のための柔軟性が必要ですが、原発にはそれを期待できないのです。

需給調整のためには、送電網の充実、揚水発電、水力、バイオマス火力による調整、EVを含む蓄電、電力供給に消費をあわせるデマンドレスポンスへの投資が必要です。

燃料価格の不確実性に一喜一憂するのではなく、国内の再エネ開発を推進し,エネルギー確保の確実性を高めることが肝要でしょう。

各方面への配慮から、よくいえば玉虫色になっている国策は国策として、国内の多様な主体に期待されることは、「社会を元気にする脱炭素」への取組みを、自分ごととして賢明に進めることではないでしょうか。

もっと再エネが普及して 欲しいケロ…

出典:『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024』 序章⑥国策の現状とエネルギー価格の高騰

脱炭素の論点とは?

地球温暖化が深刻化する昨今、「脱炭素」への理解をより深めて頂こうと、脱炭素を分かりやすく解説する書籍『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024』の論点を連載することとなりました。

図説 脱炭素の論点 2023-2024

出版社:旬報社

著者 :一般社団法人 共生エネルギー社会実装研究所 (編著)
    堀尾 正靱(編集主幹)他

発売日:2023年5月29日

詳しくは、旬報社公式サイトの書籍情報ページでご確認ください。

「脱炭素の論点」では、上記書籍から脱炭素に関わる様々なテーマをピックアップし、人類の脱炭素の必要性を体現したイメージキャラ「ゆでがえるくん」と一緒に脱炭素について学ぶことができます。

イメージキャラクター
ゆでがえるくん

ゆでがえるくん プロフィール

地球温暖化を甘く見て、ライフスタイルや
経済の仕組みを変えられない人類をイメージして、
AIが作り出したバーチャルなカエル。
徐々に鍋で茹でられているが、気がついていない。
人類と一緒に、脱炭素について勉強する必要性を感じている。

「脱炭素の論点」シリーズ記事はこちら

■第1回「脱炭素」とは?

■第2回 社会を元気にするという視点から

■第3回 世界と日本の取り組みを比較する

■第4回 日本の遅れとその原因

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