脱炭素の様々なテーマからピックアップして解説する『脱炭素の論点』。
第10回は、再生可能エネルギーの普及に欠かせない電力市場の仕組みとその改革について解説します。

※本記事の文章は『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024(出版:旬報社)』から著者及び出版社の許可を得て抜粋したものです
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変動型再生可能エネルギー(VRE)大量導入のためには要素技術の開発だけでなく、電力 市場設計など経済や制度の改革も必要です。
日本でも議論進む電力市場のあり方はどうあるべきでしょうか。
電力市場とは
ひと口に「電力市場」といっても付随市場も含め様々存在しますが、世界的に標準的な電力市場の構造は図表1に示すようなものです。
スポット市場は、主に石炭火力の起動時間の観点から、実際の受渡の前日に取引が終了します。
一方、受渡までの時間帯に不測の事態(ボイラの故障や風力の予測修正など)のために、スポット市場でいったん約定した量を修正するために時間前市場が存在します。
この2つの市場は民間が開設する市場(取引所)であり、透明性や非差別性が担保されながら不特定多数の匿名取引で量と価格に関する意思決定が行われる場です。
一方、需給調整市場はシングルバイヤーの特殊市場であり、多くの国では系統運用者が開設しています。
この市場は時間前市場の閉場後、市場プレーヤーが出したインバランス(計画値と実値のずれ)や送電混雑による送電不能分を調整するために予備力(調整力)を取引する市場です。

VREの予測誤差と電力市場設計
VREが増加するとその変動性のため調整力がより必要となり火力発電もより多く必要になるという言説も過去にはありました。
しかし欧州の実績では、VREの導入率が増えるにつれ需給調整市場で取引された(実際に応動した)予備力が逆に少なく済む現象が見られています[→図表2]。
理由としては、時間前市場の閉場時刻を受渡時刻に近づけることで(ドイツ国内では受渡5分前まで取引可能)、時間前市場が活性化したこと[→図表3]があげられます。
日本では「風力・太陽光は予測できない」との固定観念が多いですが、図表4からわかるように単基の風車よりも広域で複数の風力発電所を集合化すると誤差が大きく改善します。
また予測誤差は受渡時間に近づくほど小さくなるため、前述のように市場閉場時刻を受渡に近くすることで誤差が大きく緩和されます。
このように欧州では、技術開発だけでなく市場ルールの変更でVREの予測誤差が改善され、風力や太陽光も相当に予測しやすくなっています。


再生可能エネルギーも需給調整に貢献する
RE導入が進む欧州では、需給調整市場でも再エネによる予備力の取引が進んでいます。
水力・揚水といったもともと調整力を持つ再エネだけでなく風力発電も実績を伸ばしており、近年は再エネが過半数を占めていることがわかります。
風力や太陽光は、供給が過剰な際に強制的に出力抑制が行われる場合もありますが欧州では、風が吹きすぎてスポット価格が低下した際に自主的に出力を下げ、必要に応じてブレードのピッチ角を高速に制御することにより需給調整市場で上方予備力を提供して収益を得るという市場行動も生まれています。
このように世界では、再エネの変動性を再エネ自身が助ける という状況が、市場取引を通じて実現されつつあります。


出典:『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024』 第4章86 電力市場と再エネ
著者:安田 陽
脱炭素の論点とは?
地球温暖化が深刻化する昨今、「脱炭素」への理解をより深めて頂こうと、脱炭素を分かりやすく解説する書籍『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024』の論点を連載することとなりました。

図説 脱炭素の論点 2023-2024
出版社:旬報社
著者 :一般社団法人 共生エネルギー社会実装研究所 (編著)
堀尾 正靱(編集主幹)他
発売日:2023年5月29日
詳しくは、旬報社公式サイトの書籍情報ページでご確認ください。
「脱炭素の論点」では、上記書籍から脱炭素に関わる様々なテーマをピックアップし、人類の脱炭素の必要性を体現したイメージキャラ「ゆでがえるくん」と一緒に脱炭素について学ぶことができます。

イメージキャラクター
ゆでがえるくん
ゆでがえるくん プロフィール
地球温暖化を甘く見て、ライフスタイルや経済の仕組みを変えられない人類をイメージして、AIが作り出したバーチャルなカエル。
徐々に鍋で茹でられているが、気がついていない。
人類と一緒に、脱炭素について勉強する必要性を感じている。
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■第10回 電力市場と再エネ