2024年6月28日

【脱炭素の論点】第4回 日本の遅れとその原因

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脱炭素の論点 第4回「日本の遅れとその原因」

脱炭素の様々なテーマからピックアップして解説する『脱炭素の論点』。第4回は、日本の電力制度改革とインフラ対策から見る「脱炭素」の遅れについて解説します。

ゆでがえる「どうして日本は 脱炭素が遅れてるケロ?」

※本記事の文章は『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024(出版:旬報社)』から著者及び出版社の許可を得て抜粋したものです


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一般市民や一般企業が、関心を持つことが少なかった電気事業の世界が、電力自由化を機に、身近なものになってきました。

日本の電力制度改革は、日本の遅れを象徴しています。その問題や課題と始まっている変化を紹介します。

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電気事業の規制改革の遅れ

国家的な電力の規制改革においても、先進諸国の中で日本の遅れと混乱が目立ちます。

電力の自由化は、中小規模事業者の参入を促進し、分散型エネルギー(再エネ)の普及で、脱炭素促進効果をもたらすと考えられます。

競争原理により価格を下げる効果も指摘されますが、制度設計や規制の不備があれば価格上昇もありえます。

自由化には2つの段階があります。

1番目は、発電と送電を別々の法人で行うようにし、新規参入を可能にする「法的分離」の段階です。

そのあと、第2段階では、発電会社と送配電会社のあいだの資本関係を断つ「所有権分離」が求められます[→図表1]。

図表1「電力自由化:法的分離と所有権分離」

後者は、発電と送電を別会社にすることで、大容量発電所と送電網を持っている旧一般電力が有利になりすぎて市場を支配することを防ぎます。

英国では、1989年電力法改正の翌1990年、発送電分離が行われました。

その後、大手企業による市場操作を排し、市場の公正性を担保する新電力取引制度に、2002年に移行しています。

また、アメリカでは1992年のエネルギー政策法の成立以後、1990年代後半から州ごとの判断で電力自由化が導入されています。

EUは1996年の第1次自由化指令で、法的分離を指示し、小売部分に自由化義務を、また送電部門に独立性確保を課しました。

2003年の第2次自由化指令では、法的分離の徹底と家庭用を含む全需要家向けの小売販売の自由化を指示し、さらに、2009年の第3次自由化指令では所有権分離を指示しています。

日本では、2013年から3年がかりで電気事業法の改正が進み、2015年にはOCCTO(電力広域的運営推進機関)が設立されて、系統の広域運用体制ができ、翌2016年には、時間前市場が設立され、発電と電力小売りへの新規参入が自由化されました(EUから20年の遅れ)。

そして、2020年、発電事業者が送配電事業者や小売事業を営むことを原則禁止する「発送電分離」(法的分離)が実施され、全国各地で「新電力」会社が立ち上げられました。

ゆでがえる「電気が自由化したら 再エネが増えるはずなんじゃないケロ~!?」

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制度不全と不正が日本の改革を困難にしている

各国の電力自由化においては、これまでに、制度設計の不備、諸制度の不整合、異常気象などにともなうトラブルから、多くの経験が積まれてきています。

イギリス(90年代;「強制プール制」の不具合)やカリフォルニア(2000-01年;供給力の増強が需要に追いつかず停電)、テキサス(2021年2月;大寒波による高騰)などの事例は、制度設計の重要性を示しています。

しかし、日本では、諸外国の20年間の事例から十分学べるにもかかわらず、初歩的なトラブルが相次いでいます。

日本では、発電容量の約8割が旧一般電気事業者(旧一電)9社の発電部門で占められ、なお強い寡占状態にあります。

旧一電とその他の発電事業者との競争が「非対称的な」(公平でない)市場は、「未成熟な市場」です。

そこでは、少数のプレーヤーの不合理な行動が、悪意がなくとも市場全体に大きな影響を与えやすくなります。

そして、市場に異常が発生した際、市場取引に充分習熟していない小規模プレーヤーにそのリスクが背負わされます。※1

周知のように、2020年12月以降、卸電力市場における異常な高騰で、多くの新電力会社が倒産・撤退するにいたっています。

さらに、2022年、大手電力(中部、関西、中国、四国、九州、沖縄電力の7社)営業部門の社員による、子会社(送配電会社)の顧客管理システムの新電力情報の不正閲覧が75万件にのぼっていました。

小売部門との情報遮断の不徹底状態も旧一電のほぼ全社にみられたと言います。

これらは、法的分離が不徹底であることの、つまり所有権分離の必要性の、一端を示すものです。

制度設計の不備とこれらの不正により、いま日本の電力自由化は重大な局面に来ており、国民の監視を必要としています。

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系統の広域化では日本も動きはじめた

しかし、時代は展開しています。日本でも2022年度からインバランスのデータが1時間遅れで公開されています。

また、偏在する再生可能エネルギーを利用するための、系統の広域化が検討されています。

とくに、北海道と東北エリアおよび九州の再エネ電力を大消費地に結びつける送電系統の強化の検討が始まっています。

図表3は、海底送電ケーブル敷設を含むこれからの送電系統の強化のコスト見積もりです。

対外エネルギー支払いの額と比較すれば、この程度の投資で、対外支払い額を大きく削減でき ることが推察されます。

図表3「再エネの偏在を補う送電網の強化案とコスト」
ゆでがえる「再生可能エネルギーが効率よく使える社会を目指すケロ!」

[参考文献]
※1 安田 陽「電力価格高騰問題の構造と本質的原因」 京都大学再生可能エネルギー経済学講座

出典:『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024』 序章⑤日本の遅れとその原因 電力制度改革とインフラ対策から見る

脱炭素の論点とは?

地球温暖化が深刻化する昨今、「脱炭素」への理解をより深めて頂こうと、脱炭素を分かりやすく解説する書籍『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024』の論点を連載することとなりました。

図説 脱炭素の論点 2023-2024

出版社:旬報社

著者 :一般社団法人 共生エネルギー社会実装研究所 (編著)
    堀尾 正靱(編集主幹)他

発売日:2023年5月29日

詳しくは、旬報社公式サイトの書籍情報ページでご確認ください。

「脱炭素の論点」では、上記書籍から脱炭素に関わる様々なテーマをピックアップし、人類の脱炭素の必要性を体現したイメージキャラ「ゆでがえるくん」と一緒に脱炭素について学ぶことができます。

イメージキャラクター
ゆでがえるくん

ゆでがえるくん プロフィール

地球温暖化を甘く見て、ライフスタイルや
経済の仕組みを変えられない人類をイメージして、
AIが作り出したバーチャルなカエル。
徐々に鍋で茹でられているが、気がついていない。
人類と一緒に、脱炭素について勉強する必要性を感じている。

「脱炭素の論点」シリーズ記事はこちら

■第1回「脱炭素」とは?

■第2回 社会を元気にするという視点から

■第3回 世界と日本の取り組みを比較する

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