Vol.6「電巧社の社名に込められた想い(字体の謎)」

電巧社という名前は、創業者の「電気の仕事を巧みにこなす会社にしたい」という
強い思いで、命名されました。しかし、昭和大恐慌のときに産声を上げ、
有限会社に改組したのは、太平洋戦争の始まる数日前。
そんな生い立ちですから、決して順風満帆に育ったわけではありません。
戦前・戦中・戦後と、電気工事業から製造業を経て商社へと業態を変えたのも、
生き残っていくための厳しい選択の結果でした。
ゼロからの出発を何回か繰り返すなか、
数えきれない苦労を乗り越えてきたのだろうと思います。

さて、電巧社の社名の漢字書体ですが、
字体をちょっと変えてあることにお気づきでしょうか。
「電」という字の上側はそもそも「雨」の字のはずですが、
電巧社の社名では「両」の字が使われています。ワープロの略字体みたいですから、
初めは看板にするときに字が潰れない工夫かと思いましたが、
看板に限らず、名刺や封筒など、いたるところで使われています。また「社」の字も、「示」と「土」を組み合わせた旧字体です。
なぜこのような古めかしい書体を使っていたのでしょうか。不思議ですね。

先日、名前の字画に詳しい方とお話しする機会があり、謎が解けました。
すべては「電巧社」という名前の画数を24画にするための工夫で、
わざわざそのために作った書体だったのです。24画は財運に恵まれる画数。
さらには旧字の社を使っている会社は、
神様のオヤシロと同じなので倒産しないと言われていたそうです。

株式会社の字体にも工夫があります。
「会」の字の下の「ム」は本来2画で書きますが、
これを1画で書くように繋げてあります。
「社」が「示」と「土」の組み合わせになっているのは、前述のとおりです。これにより、株式会社は29画となり、これは知略を生かす画数だそうです。
「知略」、すなわち「巧」ということだと思います。
さらには株式会社と電巧社を合わせると53画になりますが、
これも財運の画数になります。

単なる縁起担ぎかもしれませんし、遊び心と言っても構いません。創業者は何も言い残していかなかったので、真相は闇の中ですが、
きっと辛かった時に、誰かが画数のことを教えて下さって、
そっと名前を変えたのではないでしょうか。信じるとか信じないということではなく、
社名ひとつの中に込められた創業者の強い想いを、
いつまでも大切にしたいと思います。